最近読んで面白かった本

最近読んで面白かった本が3冊あった。
まず、六草いちか『それからのエリスーいま明らかになる鷗外「舞姫」の面影』(講談社、2013年9月)。鷗外を訪ねて日本に来たエリスの実像を追ったノンフィクションだが、あくまでも真実を追い続ける努力をおしまない。そして、ついに「エリス」の写真を発見する。推理小説のような筆運び。評伝を書くためには、関係者の多くの人たちに会わなければ成し遂げられないことは、私も経験した。しかし、この本は、ドイツという地にいながら、私より数十倍も努力している。その熱意に打たれてしまう。

津野海太郎『したくないことはしない 植草甚一の青春』(新潮社、2009年10月)。著者津野海太郎晶文社時代に植草甚一の本をたくさん出している。植草と出会ったのはその関係だが、知らない生い立ち、青春期を求めて街をさまよい、足で書いたものである。これも評伝を書くためには大切なことである。植草が早稲田大学で建築を学んだとき、今和次郎に学んだという。そういえば、何となく今和次郎の生き方に似ているような気がする。植草の「したくないことはしない」は、どんな場所でもジャンパーを着て行った今和次郎と重なるから。

川本三郎『東京暮らし』(潮出版社、2008年2月)。文庫になっていないこの本を始めて読んだが、「柴田宵曲のいた時代」の一文に釘付けになった。博識の文人といわれる柴田宵曲については、『田端抄』を出されて柴田宵曲に触れている矢部登氏から、詳しく聞いていた。『団扇の画』(岩波文庫)も読んでいたが、まず感じたのが、川本三郎氏も矢部登氏も、現代の柴田宵曲ではないかということであった。彼等は、街を歩き、その想いを多くの文人と重ねながら書き留めているからである。その文章も柴田宵曲に似て美しい。『東京暮らし』を読むと、私が追い続けている原田康子の『挽歌』のことや、岡崎武志氏の『気まぐれ古本屋紀行』のことが出てきて一気に読了した。最後の「小さな古本屋」の一文に、映画監督の実相寺昭雄の俳句「古書店に寿命の灯ひろいたり」を引用していたが、まさに老いた自分と重なってしまった。