『思ひ出艸』詳細

伊上凡骨の著書(画集)といわれる『思ひ出艸』が手元に届いた。奥付には、明治三十八年八月一日発行、編輯兼印刷者伊上純蔵(純蔵は本名)、発行者金尾種二郎、発売所は金尾文淵堂である。五十銭で売られていた。まずは、発行者が金尾種二郎、発売所は金尾文淵堂であったことに驚いている。凡骨は後で金尾文淵堂のかなりの著書と関係したが、明治三十八年といえば、金尾が出版社を大阪から東京に移した直後で、発売所の住所は、東京市神田区西今川町二番地である。

扉には、伊上凡骨の一文が記されている。
 畫はがきの行はるゝにつれて余弊は早くも生じぬ。見給へ、日を追うて出づるものゝ、唯だ物知らぬ俗眼を喜ばしめむとのみ勉むるを。この「おもひで草」は世の悪風を正しきに引直さむとて、洋畫家和田英作、岡田三郎助、長原孝太郎、藤島武二、三宅克己、中澤弘光、小林萬吾、満谷國四郎、石井柏亭の諸氏、競うてその妙技を揮はれ迂生凡骨又そを如何にして見本版画に彫刻し印刷すべきやを工夫し、毎月六圖を壱冊として発行するものなり。されば従来の畫はがきの類にあらずして、やがて新作畫集と畫はがき帖とを兼ぬるものとぞ云ふべき。いかで凡骨が彫技の進歩をも月々この刷巻によりて批判し給はば望外の幸にこそ。
       明治三十八年八月 伊上凡骨

その裏には「第壱号目次」として
 秋       和田英作
 清見寺     藤島武二
 花の香     小林萬吾
 花見      藤島武二
 飼餌      小林萬吾
 恋衣      和田英作

そして、はがきに版画が摺られたものが、アルバムのように一枚ずつ丁寧に糸で綴じられている。なんと言っても、和田英作の「恋衣」が美しい。

この『思ひ出艸』には第壱号とあるが、この企画はいつまで続いたのだろうか。それとも第壱号で終わったのだろうか。
というわけで、jyunku 氏のコメントに返事として書きました。