参考文献に洩れた『ブタペストの古本屋』

正月、新古書店徳永康元『ブタペストの古本屋』(ちくま文庫)を手に入れた。親本を持っていたので、見逃していたものだがー。

この本には、私が追っているフリッツ・ルンプと中戸川吉二の2人が出て来る、珍しい本である。その箇所を引用すると、フリッツ・ルンプは、『皷村襍記』という項に、

この本をはじめて私の手にとらせたのは、たしかフリッツ・ルンプという名前だったと思う。「皷村襍記」の巻末近く「色あせた女性」という怪談の一篇がある。皷村という人は怪談の上手でもあったらしい・小山内薫、フリッツ・ルンプ、それに皷村の三人が、吉原で飲んだ帰りに市電に乗り、うとうとしていると、小山内が突然皷村をゆりおこし、いつもつきまとっている女の幽霊がそこにいる、というのである。

とはじまるのだが、そのあと野田宇太郎の『パンの会』に触れ、北原白秋、木下杢太郎らとフリッツ・ルンプの関係にも触れている。実は、『フリッツ・ルンプと伊勢物語版本』(関西大学出版会)に書いた評伝「フリッツ・ルンプ物語」の参考文献に載せるのを忘れていたのだ。この本、鈴木皷村『皷村襍記』(昭和19年、古賀書店)は載せたのだが、うかつであった。
中戸川吉二のことは「古書の旅」のなかで、

短篇の名手で、その才筆には芥川龍之介も一目おいたという中戸川吉二も、代表作の「イボタの蟲」のほか、近年めったに古本屋で見かけなくなってしまった作家だが、いつだったか神田の一誠堂に、彼の作品集が何冊かかたまって出たのを手入れてほとんどそ揃えることができた。

とあり、当時の編集者其氏の旧蔵書とも書いているが、水守亀之助のことだろうか。実はこの『ブタペストの古本屋』も、『中戸川吉二作品集』(勉誠出版)の参考文献に洩れていた。