フリッツ・ルンプが出てくる本2冊

フリッツ・ルンプが出てくる本が2冊ある。いずれも初めて知る内容である。

浮世絵をつくった男の謎 岩佐又兵衛 (文春新書)

浮世絵をつくった男の謎 岩佐又兵衛 (文春新書)

1冊は、辻惟雄岩佐又兵衛―浮世絵をつくった男の謎』 (文春新書)。実は4月1日、関西大学文学部のY教授が上京され東京で会った。ルンプが昭和7年ベルリン大学に提出した博士論文『1608年の伊勢物語と同著が17世紀の日本に挿絵に与えた影響』(ルンプはこの論文で博士号を取得、著書も刊行された)は、日本で(世界で)初めて『伊勢物語』を論じたものとして貴重であり、何とか日本で翻訳したいとの相談を受けていてた。ルンプの論文や著書で日本語に翻訳されたものは皆無に等しく、わずか山室静が『日本の民話』(1938)の序文を雑誌(『日本児童文学』1973年1月号)に発表したに過ぎない。ルンプの業績のひとつであり、少しでもお手伝いしたいと伝えた。
その後Y教授から手紙があり、辻惟雄岩佐又兵衛―浮世絵をつくった男の謎』にルンプが出てくると教えられた。はじめて知る内容であった。あとに国宝となった岩佐又兵衛作「山中常盤」のことである。昭和3年暮れの話。長谷川巳之吉第一書房社主)が馴染みの神田古書店「一誠堂」に立ち寄ると、店主から「実はルンプというドイツ人が二万五千ドルで買うことにきまったものだが」と写真を見せられたという。長谷川は松岡譲に相談し、どうしても海外流出を防ごうと自宅を抵当にして手に入れたという。この著者辻惟雄氏は、直接生前の長谷川巳之吉に聞いた話と、松岡譲の一文「岩佐又兵衛の今昔ー又兵衛論争と発掘の経緯」をもとにして書いている。たしかに昭和3年ごろ、フリッツ・ルンプはベルリン美術図書館などから依頼され、絵本、美術本の購入のために3度目の来日をしている。とのときルンプが「山中常盤」を発見し入手を考えていた出来事があったのだ。あとに国宝となる美術品を!!しかしこの著の巻末にある主要参考文献の松岡譲「岩佐又兵衛の今昔ー又兵衛論争と発掘の経緯」には掲載雑誌などの記述がなく、なんとか探して読みたいと思っている。

ブダペストの古本屋 (ちくま文庫)

ブダペストの古本屋 (ちくま文庫)

もう1冊は徳永康元『ブタペストの古本屋』だが、知人のK氏が知らせてくれた。鈴木鼓村『鼓村集記』(昭和19年、古賀書店)を引用しながらルンプに触れている。鈴木鼓村は「パンの会」に出席して、そのあとルンプらと一緒に飲み歩いたらしい。あとにその時代のことを書いた野田宇太郎の一文も引用しているが(たくさんあるが正確にルンプを事を伝えていない感じがある)が、まだ鈴木の『鼓村集記』を読んでいない。そこから「パンの会」時代のルンプの一面を発見できるかもしれない。
ちなみに鈴木鼓村という人物については、ネットに次のように書かれていた。「パンの会」との関係については、皆無であったが…
鈴木鼓村(1875〜1931)は、宮城県亘理町の人。本名は映雄と称した。国文学と八橋流の筝曲を学び、軍人などを経て来福、足羽山に寓居を定め、福井中学の教頭を務めた。筝曲「京極流」初代宗家である。明治三一年四月より福井には1年余在住し、その後京都府立第二中学に転任。大正七年頃より「那智俊宣」と改名して大和絵を描いた。京極流はその後、福井の雨田光平が宗家を継いだ。