荒川洋治『忘れられる過去』(朝日文庫)

ここ数日、8月31日の『中戸川吉二作品集』刊行記念トークのために、みすず書店から出た荒川洋治氏の『忘れられる過去』を、朝日文庫で再読している。この本には、引用を含めて中戸川吉二の名が数回出て来る。最初は「芥川龍之介の外出」で、芥川龍之介全集にある年譜を引用したもの。大正8年6月5日の「午後、菊池寛と一緒に中戸川吉二を訪ねる」、そして9日には「午後、谷崎潤一郎宅を訪ねると、久米正雄中戸川吉二今東光が来ていた」など。荒川氏は、まだ電話も少ない時代は人を訪ねるために相手のところに出かけるのだが、会えたか会えなかったかを○×でチェックし、その確率を計算したユニークな一文で、その確率は60%以下という。私にとっては、引用文の年譜が、当時の中戸川吉二の交友を知ることが出来て興味深い。あと「何もない文学散歩」では、これから行きたいところとして、中戸川吉二「滅び行く人」の牧場があった北海道・釧路と出て来るのだが、釧路の有志が金を集めて、荒川氏に講演を頼んだら実現するだろうに、などと勝手に考えてしまう。やはり、「長い読書」の一文が圧巻、高見順の『高見順日記』を読んでの感想だが、このなかで中戸川吉二「滅び行く人」に触れ、「現代小説のはしりではないかと思われるほど新鮮な、また飛び切りうまいものだ」と書いている。いずれも、荒川氏の中戸川吉二への「こだわり」を感じさせる一文である。なお、文庫版の川上弘美さんの解説にも中戸川吉二の名が加わっていることを記して置く。

忘れられる過去 (朝日文庫)

忘れられる過去 (朝日文庫)

なお、『中戸川吉二作品集』刊行記念トークは、今月30日(土)、定員30名だが、半分ほどの予約が入っていると言う(12日現在)。詳しくは忍不ブックストリートで。http://d.hatena.ne.jp/shinobazukun/20130730