永井龍男と中戸川吉二

正月、近くの「ブ」などの新古書店で8冊ほどの古本を仕入れた。その一冊が、永井龍男講談社文芸文庫の『へっぽこ先生その他』。講談社文芸文庫に「スタンダード」とあるのを初めて見る。
永井龍男の書いたもののなかに、中戸川吉二が出てきたものがあった記憶がある。戦前に鎌倉にあった湘南クラブに出入りしていた人とあった気がする。たしか、かまくら春秋社が出しただれかの追悼集であったかかも知れないが、記憶があいまい。
中戸川は、牧野信一の追悼文「可哀想な詩人牧野よ」(昭和11年5月)で、牧野の死の数日後、銀座で永井に偶然あう。酔った永井に「牧野がなんでエ。牧野が死んだからつて、小田原に急行したりしてみっともねエゾ」と言われ、抱きつかれる。その肉体は牧野そっくりで感傷のとりこになっていったという。この追悼文は『中戸川吉二作品集』に収めた。永井龍男の『へっぽこ先生その他』を読みながら、そんなことを思い出していた。