奇しき縁

昨夜、東京銀座の小さなレストランで不思議な縁で結ばれたひとたちに会った。
わたしの文学研究の対象に作家中戸川吉二がいるが、著書『北村十吉』の装丁版画を彫ったのは徳島出身の木版彫刻師伊上凡骨、その弟子がドイツ人で日本美術研究家フリッツ・ルンプである。いつしか彼らの生涯に魅せられ、その評伝を書き続けている。
その関係で、来年秋に岡山大学で開催される日本独文学会主催のシンポジウムで、「フリッツ・ルンプ」について話すことになっている。その後四国に渡って徳島県立文学書道館でルンプの師である「伊上凡骨」について語る予定も組まれている。
シンポジウムのパネリストとして出席される高知大学のS教授から、久しぶりに上京するので打ち合せを兼ねて会いたいと電話が入ったのは二ヶ月ほど前のこと。S教授の亡くなったご両親は北海道のひとで、会うたびに昔話を聞かせてくださり再会を楽しみにしていた。
一緒にシンポに参加する習志野市教育委員会のH氏も出席。いつもいただく手紙にはラムサール条約登録湿地にされているという谷津干潟の絵が描かれているが、故郷の釧路湿原を思い出していた。
そして、同席したSご夫妻の奥さんの祖父は、ルンプとともに第一次世界大戦で日本の捕虜になったドイツ人。さらに父親は、プロレタリア作家、大衆作家として昭和を生きた貴志山治という。この1月22日まで、徳島県立文学書道館で「貴志山治展」が行われていた。その企画展の図録、復刻版『ゴー・ストップ』(昭和5年中央公論社)までいただいてしまった。来年訪れる文学書道館とはいえ、わたしにとっては不思議な縁である。
さらに偶然だが、同じ日鶴居村出身で『釧路湿原の聖人・長谷川光二』の著者である九州産業大学伊藤重行教授から、上京するので会いたいと連絡があった。急遽この集まり同席してもらったが、昨年秋に九州産業大学で日本独文学会全国大会があり、S教授も参加していた。共通の知人もおり、色々な話題に尽きることはなかった。
人生にはひとを介して色々な出合いがある。めったにあることではないが、奇しき縁を感じる一夜であった。(ここまでは新聞コラムの下書き)
そして、いよいよ明日札幌の北海道立文学館に向かう。