小松伸六ノート㉙ 源氏鶏太と小松伸六(補遺)

 源氏鶏太と小松伸六(補遺)

 

今年の2月14日に、「小松伸六ノート⑮ 源氏鶏太と小松伸六」(https://kozokotani.hatenadiary.org/entry/2021/02/14/164325)を書いたが、その後ご遺族からお借りした大量の切り抜きのなかに、未見であった、『源氏鶏太自選作品集』(全20巻、講談社、昭和48年5月~昭和49年12月)の「解説」の写しがあった。今回は補遺として、その「解説」の詳細に触れたい。なお、「小松伸六ノート」では『源氏鶏太自選集』と書いたが、正式には『源氏鶏太自選作品集』である。「月報」に作品集の「解説」を入れるのは珍しいが、小松は『伊藤整全集』の付録(月報とは書いていないが)にも「解説」書いている。さて、『源氏鶏太自選作品集』の「月報」に収録された小松伸六の巻別の「解説」の詳細は次のようになる。

 

・『源氏鶏太自選作品集』第3巻(1973年6月刊)

    月報2「坊ちゃん社員・天下泰平」(解説)

・『源氏鶏太自選作品集』第5巻(1973年9月刊)

    月報5「川は流れる・重役の椅子」(解説)

・『源氏鶏太自選作品集』第8巻(1973年8月刊)

    月報4「実は熟したり・愛しき哉」(解説)

・『源氏鶏太自選作品集』第9巻(1973年4月刊)

    月報1「天下を取る・意気に感ず」(解説)

・『源氏鶏太自選作品集』第11巻(1974年5月刊)

    月報13「女性自身・男と女の世の中」(解説)

・『源氏鶏太自選作品集』第12巻(1973年7月刊)

    月報3「堂堂たる人生・人事異動」(解説)

・『源氏鶏太自選作品集』第17巻(1973年10月刊)

   月報6「若い海・:ほか短篇」(解説)

・『源氏鶏太自選作品集』第20巻(1974年11月刊)

   月報19「鏡・優雅な欲望」(解説)

 

今回確認できた小松伸六の『源氏鶏太自選作品集』の「解説」は8編。いずれも収録作品についての詳しい「解説」だが、他の巻もあるかも知れない。

もう一つ、小松伸六の源氏鶏太文庫「解説」は、確認できただけでも20冊を数えるが、最近また1冊発見した。『東京一淋しい男』(昭和42年1月刊、角川文庫)である。小松の「解説」の中に、興味深い箇所があるので引用したい。書き始めは、こうである。「文学散歩のような仕事で、くもった初冬のある日、富山に行った。富山市は源氏さんの生れ故郷である。」そして、源氏の生家を探すが、空襲で焼けたあとの街並みが変わり、見つからなかったという。「文学散歩のような仕事」というのは、昭和42年『小説現代』2月号に載った「文学観光案内2 北陸篇」のことだろう。そして、こう記す。

「私事にわたるが、私は北海道生れだから、そう思われるかも知れないが、源氏さんは、北方乾燥型の北海道作家と多少、似ていることがあるのではないかと思う。そういえばいまの富山は北海道の町とよく似ている。わたしはこれを必ずしも冗談として書いているのではない。たとえば北海道作家にみられるフロンティア・スプリット(開拓者精神)といったものが源氏さんの文学にみえるからだ。」

この小松の指摘は、あたっている。富山も港町で、戦前戦後、北海道の漁港には富山の漁船が大挙してやってくる時代があった。彼らは、北海道の港町に富山の大工を呼び寄せて家を建て、富山と北海道を行き来して過ごしていた。小松は、そのフロンティア・スプリットを、源氏文学のなかに感じ取っていたのである。

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